さくらが登録電気通信事業者になった話

さくらが登録電気通信事業者になった話

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さくらインターネットが登録電気通信事業者になった話

これはさくらインターネットAdvent Calendar 2018 13日目の記事です

まえがき

 IoTチームの川畑です。去年の さくらAdvent Calendar 2017 では、同じく総務省ネタとして IINとPLMNの番号取得 について記事を書きましたが、実は同時並行で電気通信事業者の登録についても手続きが完了しており、紹介するタイミングを逃しに逃して1年後のAdvent Calendarのネタになるのでした。すみません。去年の記事を公開してから社内では 総務省コーディネーター というニッチすぎてよくわからない称号(?)を頂き、すっかり総務省の手続き関連の仕事が板についてしまいました。

 今回登録になるにあたって、始終総務省との全ての交渉を担当する非常に貴重な経験をさせて頂きました。何せ探せど探せどどこにも情報がありませんし、通常は伝送路を持つキャリアの中の人がやる業務です。インターネット上で電気通信事業者として登録の実例が公開されるのは、もしかしたらこれが史上初かもしれません。(1年ぶり2回目)

登録になった事業者は、大半が自社で光ファイバ・電話線・無線等の 伝送路 を持ってサービスを提供している事業者です。電気通信事業者の登録とは何か、登録すると何ができるか、どうやって登録になるのか、登録になるまでの道のりをお届けします。

電気通信事業者って何?

 電気通信とは 有線、無線その他の電磁的方式により、符号、音響又は影像を送り、伝え、又は受けることをいう。 とありますが、言う所の電話やインターネット関連サービスを生業とし、事業性をもって提供している集団を電気通信事業者と呼びます。みなさんが普段使っている携帯電話を提供している事業者や、NTTなどが電気通信事業者ですね。

 電気通信事業に該当するものは、勝手に始めてよいものではありません。電気通信事業法とよばれる法律に従って、総務省に対して どのような電気通信事業を提供します と予め宣言(書類の提出)しなければならず、その提供する事業やサービスの内容によって 届け出 電気通信事業者登録 電気通信事業者 のどちらかに分類されます。 届け出は比較的ライトな分類で、個人や任意団体でも申請が可能です。やろうと思えば誰でも電気通信事業を営むことができます。登録はより責任の重い事業者として、そもそも法人でしか受け付けてもらえず、しっかり事業を運営する能力があるか等、様々な書類の提出と審査を経て電気通信サービスを提供することになります。


総務省が電気通信事業へ新規参入の障壁を下げるために、何が電気通信事業に該当する・しないのかがYES-NOのフローチャートで解説した資料が公開されています(クリックで飛びます)。大方の場合はこのマニュアルに従って電気通信事業者に該当するか否かを判断することが出来るでしょう。やりたいサービスが該当するか分からない場合は、最寄りの総務省総合通信局・電気通信事業課へ問い合わせると、詳しいヒアリングの後に判断して貰えます。

電気通信事業の登録

  • 1.他人の通信を媒介し、電気通信の役務を提供する
  • 2.事業性を有し、反復継続的に提供する意志があり(一時的に提供するものではない)
  • 3.サービス提供により利益を得る(ここで利益とは金銭の授受だけに限らず、サービス提供の対価として広告を打ってもらうことや、相互にサービスを使わせ合うなど融通する行為も利益を得ると見なされます)

 この3要素は電気通信事業者になるために共通して必要な前提条件で、電気通信事業の届け出と登録は、画像の通り4要素目の 電気通信回線 を設置するか否かで大きく変わってきます。電気通信回線とは電柱や地下に敷設されている光ファイバケーブル・ケーブルテレビ局の同軸ケーブル・電話線や携帯電話で利用される基地局の無線を指し、まさにNTTやKDDI・ケーブルテレビ局などがこの電気通信事業者の登録を受けて事業を行っているのです。全国の登録になった 電気通信事業者一覧は、総務省により公開 されています。

最近の登録動向

 登録の話をネタにしているのも、最近はIoT業界でも登録の事業者が目立って増えてきているからです。お察しの良い読者の皆様ならもうお分かりのこと、 LPWA事業 です。 SigfoxやLoRa(WAN)、Wi-SUNなど電波法における免許不要帯(ISMバンド)を利用した通信方式で、LTEや3Gの電波が届かないラストワンマイルのIoT向け通信環境に利用されています。

登録になる詳細な条件

 LPWAの解説は記事の本質から逸れるため説明を省略しますが、このLPWA機器を親機・子機のように利用し、事業者は親機(=基地局)を提供し、利用者が子機を購入してサービスエリアで利用するといった形式がとられます(これをゲートウェイモデルと呼ぶ)。この親機を事業として提供するということは、 無線の伝送路 つまり電気通信回線を設置するということになり、その提供範囲によっては届け出ではなく登録にならないといけないのです。当社が登録を受けたのも、同じ理由です。

 ゲートウェイモデルでLPWAを提供する場合、親機は専門用語で 端末系伝送路設備 に分類されます。ここに書いている通り、電気通信回線を設置した上で市や区をまたいでサービスを提供する場合には、登録になる必要があると書いてありますね。この範囲に留まる場合は、電気通信回線を設置してもこの範囲を超えない場合は、届け出でOKということになっています。

登録の障壁

 登録になる障壁は 法人でないといけない だけではなく、事業で提供する設備に応じて電気通信主任技術者の資格者証を交付された有資格者を選任し、設備の運用・工事・維持について監督させることが義務付けられていることも挙げられます。社内に居ない場合は外部に委託することも認められていますが、設備の種類によっては原則都道府県毎に選任が必要であり、近県であれば兼任も許可されます。当社の場合、私が 伝送交換 種と 線路 種の両方の資格を受けていたため主任技術者の選任は私で提出しました。いかにこの主任技術者を確保するかも、参入する壁の一つだと思います。 ちなみに、LPWAのゲートウェイモデルを提供するために登録になるには、電気通信主任技術者の 伝送交換 種が必要です。
 後は会社自体が届け出事業者から登録事業者に変わるため、私の一存で変更できるものではありません。なぜ登録になるのか、運用方法はどうなるか、リスクはあるか等を部門長が役員会で説明するための資料を作ったりもしました。

登録申請

 さて、前置きが長くなりましたがいよいよ登録です。登録は各エリアを管轄する総合通信局の電気通信事業課か、管轄する総合通信局を跨いだ区域で事業をする場合には総務本省の事業政策課で手続きを行います。私の場合は近畿総合通信局の電気通信事業課に直接電話し、担当官に概要をお伝えするところから始まりました。事業としては間違いなく登録が必要だと言うことで、手続きに必要な書類一覧を教えていただきました。

 
最終的にはこれだけ必要になりました

必要な書類一覧

 登録の申請に必要な書類一覧は こちら で公開されています。

  • 1.電気通信事業登録申請書(様式第1)
  • 2.欠格事由に関する誓約書(様式第2)
  • 3.ネットワーク構成図(様式第3)
  • 4.提供する役務に関する書類(様式第4)
  • 5.申請者の行う電気通信事業以外の事業の概要
  • 6.登記事項証明書の原本
  • 7.定款の写し
  • 8.役員の名簿及び履歴書
  • 9.電気通信事業変更届出書(様式第9/届け出→登録になる場合のみ必要)
  • 10.事業用電気通信設備の自己確認届出書(様式第20の2)
  • 11.管理規定変更届出(様式第22/既に管理規定がある場合のみ必要、新規では管理規定届出書が必要です)
  • 12.電気通信主任技術者選任届出書
  • 13.電気通信設備統括管理者選任届(当社は既に届け出事業者として選任済みであったため提出なし)

当社は届け出→登録になったので、新規で登録になる場合一部不要な書類があります。
登記事項証明書や定款の写し、役員の名簿・履歴書は私では到底用意出来ないため、法務や総務にお願いして書類作成と発行をお願いしました。
次項でもう少し細かく解説します。

1.電気通信事業登録申請書

 当社が提供しているレンタルサーバ等の電気通信事業は全国を業務区域としているため、LPWAで提供する業務区域とそれ以外のサービスの業務区域(といっても全国ですが…)を記入します。当社が事業で利用するLPWAゲートウェイは端末系伝送路設備であるため、そのゲートウェイでサービスを提供する場所(政令指定都市は区単位)を記入します。

2.欠格事由に関する誓約書

 電気通信事業法第12条第1項第1号から第3号までに該当すれば登録を受けられませんので、該当しない事を誓約しなければなりません。

第十二条 総務大臣は、第十条第一項の申請書を提出した者が次の各号のいずれかに該当するとき、又は当該申請書若しくはその添付書類のうちに重要な事項について虚偽の記載があり、若しくは重要な事実の記載が欠けているときは、その登録を拒否しなければならない。
 一 この法律又は有線電気通信法(昭和二十八年法律第九十六号)若しくは電波法の規定により罰金以上の刑に処せられ、その執行を終わり、又はその執行を受けることがなくなつた日から二年を経過しない者
 二 第十四条第一項の規定により登録の取消しを受け、その取消しの日から二年を経過しない者
 三 法人又は団体であつて、その役員のうちに前二号のいずれかに該当する者があるもの
3.ネットワーク構成図

 届け出電気通信事業の際にも必要になります。機器の名称(機種)やIPアドレスまで書き込む必要はなく、構成図はPowerPoint等のポンチ絵(簡易なもの)で問題ありません。

4.提供する役務に関する書類

 同じく届け出でも必要になる書類です。総務省側で提供するサービスを約30種別に大別してくれているので、提供する役務に丸をつけます。

5.申請者の行う電気通信事業以外の事業の概要

 電気通信事業以外に事業を行っていれば、その事業の概要を記入します。 当社のコーポレートサイト には、不動産の賃貸(データセンターのコロケーション等)や管理が記載されていますので、これらについて説明する必要があります。本文書に関しては、法務にお願いしました。

6.登記事項証明書の原本

 本社所在地の法務局から会社の登記事項証明書を取得する必要があります。総務に取得をお願いしました。

7.定款の写し

 どの会社にもある定款です。法務にお願いして写しをいただきました。

8.役員の名簿及び履歴書

 会社役員の氏名・職名・生年月日・略歴を記載した書類です。法務に作成をお願いしました。

9.電気通信事業変更届出書

 もともと届け出事業者であったものを登録事業者として変更したため、更新用書類が必要です。

10.事業用電気通信設備の自己確認届出書

 これが一番大変でした。自己確認の根拠は電気通信事業施行規則第27条の5の6項に定められている内容です。

六 法第四十一条第一項に規定する電気通信設備のうち前各号に掲げる事業用電気通信設備以外の電気通信回線設備 次に掲げる書類
 イ 第一号に掲げる書類(同号ロ、ト、リ、ル、ソ、ラ、ム及びヰに掲げるものを除く。)
 ロ 電気通信設備を設置している通信機械室における自動火災報知設備及び消火設備の設置状況に関する説明書
 ハ その他イ及びロに掲げる書類を補足するために必要な資料

さらに を展開すると…

(多すぎるので画像にしました)これだけあります。これらについて、以下の2点がどうかを確認します。
– LPWA基地局(端末系伝送路設備)
– データセンター及びサーバー(交換設備、伝送路設備及びこれらの付随設備)

 さすがに自己確認とは言えど確認した内容に不備があっては困るので、当社が確認すべき法律の根拠(施行規則)と確認すべき対象設備やその詳細な中身(利用するLTEやLoRaモジュールは技術基準に適合しているか等)について列挙し、それぞれ自己確認の項目に当てはめ、構成図・停電対策・防護措置などについて丁寧に回答書を作成しました。
作成した資料については直接総務本省の電気通信事業部・電気通信技術システム課へ持参し、自己確認について誤りや抜けが無いか確認を頂きます。
 問題ないとOKを貰えれば、ようやくこの自己確認届出書に上記2点確認した旨が記載出来ます。(私は念のために本省へ持参した回答書を別添とし、根拠資料として提出しました)


法的に拘束力のある書類では無いため、一部をお見せします。

11.管理規定変更届出

 一定規模以上(30万ドメイン)のDNSサービスを提供していると ドメイン名電気通信サービス という電気通信役務の対象になります。本役務は電気通信設備統括管理者(後述)と呼ばれる管理者の選任や設備の管理規定を整えて書類を提出する必要があり、当社は届け出電気通信事業者として既に書類を提出済みでした。管理規定とは電気通信の設備をどう適切に管理・運用するかを事業者が決めて総務省に提出する仕組みになっています。 詳しくは こちら に管理規定記載マニュアルがあり、何をどうすれば良いのかが良くまとめられています。LPWAサービスを追加するにあたり、これを参考にしながら管理規定を更新しました。

12.電気通信主任技術者選任届出書

 登録事業者の必須事項である有資格者の選任届出書です。私が持っていたので、資格者番号と種別を記入します。主任技術者は電気通信設備の運用・維持に関する現場レベルの監督者として業務を行います。電気通信事故が発生した際にも、故障箇所の特定や報告書の作成、再発防止策の策定やその策の認定を業務として行うことが法律で規定されています。

13.電気通信設備統括管理者選任届

 電気通信設備統括管理者は、経営レベルでの責任者(安全管理責任者)です。管理者として選任されるためには、役員・執行役員や本部長等の会社経営に手を入れられる役職に就いていなければならず、加えて電気通信設備の維持・運用・工事の監督経験が3年以上必要です。主任技術者を持っていなくても実務経験と役職さえあれば選任できます。当社は既に技術本部の本部長を選任済みであったため、新たに書類の提出はしませんでした。

登録完了

 以上の書類を全て揃えた上で登録として事業を行うに相応しい経済力や運営力があるかどうか、全面から審査が行われます。結果としては欠格事由も無く、無事に審査完了し晴れて登録事業者となりました。新規登録や登録内容の変更にあたっては登録免許税制度に則り都度15万円の納付が必要です。

 登録の番号は近第19号です。初手から登録完了まで約2ヶ月でした。書類の差し戻しは無かったのでほぼストレートかと思います。法務や総務にも大変ご尽力頂き感謝しかありません。

最後に

 専門用語が多く、初見ではなかなか読み辛い記事になってしまいました。最後までお読み頂きありがとうございます。登録になった事を活かし、現在は北海道の石狩市と福井県の鯖江市で、LPWAを活用した河川水位計測を自治体と協力して運用しています。また、横須賀でもYRP/NICT/京セラコミュニケーションシステムズ様と協力し、様々なアンライセンスLPWAが同時に試せるハイブリッドのテストベッドを運用しています。LPWAに興味のある方は、是非協会サイトを御覧ください。
 申請書類は2017年当時に必要とされたものですので、登録の申請をされる際には各総合通信局または総務本省にお問い合わせください(免責)

さくらインターネットはLPWAを活用し、更なるサービス価値の向上を目指します。

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加筆・修正

なし

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